次のシーズンの言葉が出そろう時期
秋は、次回シーズンの言葉が出そろう時期です。繊研新聞社がまとめた27〜28年秋冬のテキスタイルキーワードランキングでは、「ビンテージ」「上質・高級感」「軽さ」が、前のシーズンに続いて票を集めました。カジュアルな装いに光沢やドレープといったエレガントな要素を加える提案や、上質な天然繊維への注目も挙げられています。
素材をつくる側にとって、こうした言葉は目新しいものではないはずです。展示会のブースでも、商談の席でも、毎シーズン似た言葉が飛び交います。
ただ、この言葉を自社のホームページにどう載せるかとなると、話は別です。多くの繊維企業のサイトでは、素材の説明が二つのどちらかに偏っています。
よくある二つの書き方と、その行き詰まり
ひとつは、仕様だけを並べる書き方です。組成、番手、目付、幅。業界の人が見れば一目で分かる情報で、正確さに欠けるところはありません。
もうひとつは、流行の言葉だけを並べる書き方です。「上質な風合い」「軽やかな着心地」「ビンテージ感のある表情」。読みやすく、雰囲気も伝わります。
どちらも間違いではありません。ただ、どちらか一方だけだと、読む人が判断できないのです。
仕様だけのページは、生地を触ったことのある技術担当には伝わります。けれど、企画を考えるデザイナーや、社内で稟議を回す担当者には、その数字がどんな表情の生地なのかが浮かびません。
流行の言葉だけのページは、逆の問題を抱えます。「上質」「軽い」は、どの会社のサイトにも書いてあります。言葉が同じなら、読む側には違いが見えません。キーワードランキングで上位に入る言葉ほど、多くの会社が使うことになります。
判断の軸は「言葉を、仕様と用途でつなぐ」
取引先候補がホームページで素材を見るとき、知りたいのは「この生地は、うちの企画に使えるか」です。そのためには、三つの情報がそろっている必要があります。
1. 風合いの言葉 「軽い」「光沢がある」「ドレープがきれい」など、手に取ったときの印象です。トレンドの言葉と重なるのは、むしろ自然なことです。
2. その言葉を裏付ける仕様 なぜ軽いのか。目付なのか、糸の太さなのか、織りや編みの組織なのか。印象の言葉に、理由となる仕様を添えます。
3. 向いている用途 ジャケットなのか、ブラウスなのか、裏地なのか。どんなアイテムで使われることを想定しているかを書きます。
この三つが一本の線でつながっていると、読む人は自社の企画に当てはめて考えられます。たとえば「この目付でこの落ち感なら、秋冬でも重く見えないワンピースに使えそうだ」と、読み手の頭の中で話が進みます。
書き換えのイメージ
たとえば、ウールの生地の説明が組成と目付、幅の数字だけだったとします。これを三つの情報でつなぐと、次のような書き方になります。
「細めの糸で織り、目付を抑えているため、ウールでありながら手に取ると軽く感じられます。表面には控えめな光沢があり、落ち感のある仕上がりです。秋冬のワンピースや、重く見せたくないセットアップに向いています。」
仕様の数字はそのまま残し、その下にこうした説明を添えます。数字を消す必要はありません。数字で確かめたい人と、印象で判断したい人の両方に読まれるページになります。
長い文章にする必要もありません。三つの情報が二、三行で書かれていれば十分です。全部の生地で書くのが難しければ、まずは問い合わせの多い定番の生地から始めると、手を付けやすくなります。
繊維の取引ならではの書き方の工夫
素材の説明を書くときに、繊維・アパレルの取引ならではの事情もあります。
「ビンテージ」は人によって意味が違う
「ビンテージ」は、古着のような色落ちを指す人もいれば、昔の織機で織ったような素朴な表情を指す人もいます。言葉だけを書くと、読む人がそれぞれ別のものを思い浮かべます。どの意味での「ビンテージ」なのかを、加工の方法や織りの特徴で一言補うだけで、誤解は減ります。
天然繊維の「上質」は、原料と工程で語る
上質な天然繊維への注目が挙げられていますが、「上質」と書くだけでは、ほかの会社と並んでしまいます。原料の産地、糸の選び方、仕上げの工程など、自社が手をかけているところを具体的に書くと、同じ「上質」でも中身が見えてきます。
シーズンの言葉は、更新できる場所に置く
トレンドの言葉は、シーズンごとに入れ替わります。会社案内のような固定のページに書き込むと、数年後には古い言葉が残ったままになります。シーズンごとの提案は、お知らせや展示会の報告など、日付のあるページで扱うのが向いています。定番の素材ページには、流行に左右されにくい仕様と用途を中心に書いておくと、長く使えます。
写真に頼りすぎない
生地の質感は写真で伝えたくなります。もちろん写真は大切です。ただ、光沢や落ち感は、画面の明るさや撮り方で印象が大きく変わります。写真に加えて、文字で「どんな光沢か」「どのくらい落ちるか」を書いておくと、写真だけでは伝わりにくい部分を補えます。
サイトは、話を進めてよいかを確かめる場所
素材の説明をここまで細かく書くのは、ホームページで新しい客を呼び込むためではありません。
展示会で生地を見た人、紹介で名前を聞いた人、サンプルを受け取った人。すでに何らかの接点がある取引先候補が、社内で「この会社と話を進めてよいか」を確かめるときに、ホームページは開かれます。
そのとき、手元のサンプルとサイトの説明が結びつくかどうか。実物を触っていない上司や同僚にも、どんな生地なのかが伝わるかどうか。そこで判断が前に進むか、止まるかが分かれます。
トレンドの言葉は、その判断を助ける入り口になります。言葉そのものを競うのではなく、言葉の中身を自社の仕様と用途で示すこと。それが、同じ言葉を使うほかの会社との違いになります。
今週できる小さな確認
自社の素材ページから一つの生地を選び、説明文に「風合いの言葉」「その理由になる仕様」「向いている用途」の三つがそろっているかを確かめてみてください。どれか一つが欠けていれば、そこが書き足すところです。
素材のことは誰よりも分かっているのに、外の人に伝わる言葉にすると何かが抜け落ちてしまう。そうした場合は、今の素材ページと、普段の商談でどんな説明をしているかをうかがうところからご相談いただけます。
ご相談は お問い合わせページ からどうぞ。