『プラダを着た悪魔2』が描いたファッション誌の危機と、テキスタイル業界のリアルな関係性

2026年5月1日、日米同時公開された映画『プラダを着た悪魔2』。20年ぶりの続編は、興行的にも大ヒットを記録しています。

私は、繊維・アパレル資材業界に特化したホームページ制作を行っていますが、この映画を観て真っ先に思い浮かべた事は「これは繊維業界にも通じる話」ということです。

もちろん、結論から言えば、テキスタイル業界はファッション誌業界とは決定的に違う構造ではあります。今回はその違いから、これからの繊維資材メーカー・生産工場が向き合うべきWeb戦略について考えていきます。

※少々ネタばれとなってしまう内容を含みますのでご注意ください。

20年ぶりの続編で描かれたのは「ファッション誌存続の危機」だった

『プラダを着た悪魔2』の物語の中心にあるのは、ファッション誌「ランウェイ」の存続危機です。

カリスマ編集長ミランダ(メリル・ストリープ)のもとに、報道記者となった元アシスタントのアンディ(アン・ハサウェイ)が戻り、ファッション誌を救うために再集結する。それが本作の本筋です。

実はこの「ランウェイ」、原作小説のモデルになっているのが世界的ファッション誌『VOGUE』だとされています。原作者ローレン・ワイズバーガーは『VOGUE』でアナ・ウィンター編集長のアシスタントを務めた経歴があり、その実体験を基に書かれたのが原作です。つまり「ランウェイ」の危機は、現実の『VOGUE』をはじめとするハイファッション誌全体が直面している現実を、フィクションの形で映し出したものとも言えます。

なぜ、これほどの権威あるファッション誌が存続の危機に瀕するのか。広告収入の減少、読者の離脱、SNSへの主役交代、どれだけカリスマ的な編集長がいても、紙媒体というビジネスモデルそのものの構造的変化からは逃れられない。

これは映画の中だけの話ではなく、世界中のファッション誌が直面している、現実の風景かもしれません。

「ハイブランドの世界」と日本の繊維は、無関係ではない

ここで一つ、踏み込んだ話を。

『VOGUE』や「ランウェイ」が扱う世界は、シャネル、エルメス、ディオール、プラダといったラグジュアリーブランドの世界です。多くの人にとっては「自分とは無関係の華やかな世界」に見えるかもしれません。

ですが、そのハイブランドの製品には、日本の繊維技術が深く関わっているのです。

世界のラグジュアリーブランドが採用する生地、染色、縫製、付属品。その一部には、日本の織元、染色工場、テキスタイルメーカーが供給しているものが確かに存在します。表に出ることは少ないですが、業界の中では広く知られている事実です。

つまり、技術力という観点では、『日本のテキスタイルは世界のハイブランドと対等なレベルにある』ということです。これは決して誇張ではなく、長年の素材研究、職人技術、品質管理の積み重ねによって築き上げられた、紛れもないジャパンクオリティの実力です。

この事実を踏まえた上で、では繊維業界全体が今、どんな状況にあるのか。話を進めていきましょう。

ファッション誌の権威が落ち、「個人の発信力」が問われる時代へ

ファッション誌が衰退した先で何が起きているか。それは「個人の発信力」が問われる時代の到来です。

かつては「ファッション誌に取り上げられる」ことがブランドや人物のステータスでした。権威ある媒体が選び、紹介してくれる。その仕組みの中で、企業も商品も人物も認知を広げてきました。

しかし今は違います。SNS、YouTube、ニュースレター、ポッドキャスト。個人が直接発信できるチャネルが無数にあり、専門性さえあれば一人でも数万人に影響を与えられる時代です。

これはファッション誌業界に限った話ではありません。「権威ある誰かが選んでくれる」を待つのではなく、「自分で発信して選ばれる」へ。あらゆる産業に共通する、構造的な変化です。

しかしテキスタイルは、ファッション誌とは決定的に違う

ここで本題です。「老舗産業の危機」という意味では、テキスタイル業界もファッション誌業界と似ているように見えるかもしれません。実際、国内の繊維産業は長年、縮小傾向にあります。

しかし、両者には決定的な違いがあります。

ファッション誌は嗜好品です。なくても人は生きていけます。だからこそ、デジタルへの代替が進めば、ビジネスとして成り立たなくなる。

一方、テキスタイルは生活必需品です。人間が衣服をまとう限り、寝具を使う限り、布を必要とする限り──需要そのものが消えることはありません。

これは決定的な違いです。伝統であることが弱点になる業界と、承継財産が強みになり得る業界。テキスタイル業界は、間違いなく後者です。

ただし、「日本のテキスタイル」が無条件で選ばれる時代ではない

とはいえ、楽観だけしていられない現実もあります。

技術力で言えば、中国の最新工場は驚くほど進化しています。生産速度では、ベトナムやバングラデシュの大規模工場には太刀打ちできない領域が確実にあります。価格競争では、最初から勝負になりません。

それでも、日本のテキスタイルには「ジャパンクオリティ」という確かな実力があります。先ほど触れた通り、世界のハイブランドが採用するレベルの技術が国内にはあります。糸の選定、織りや編みの精緻さ、染色の安定性、加工の繊細さ、そして職人の手仕事──積み重ねられてきた技術と文化の総体です。

問題は、その品質が「伝わっていない」ということです。

発信しない品質は、存在しないのと同じ

ここに、ファッション誌業界の話が戻ってきます。

ファッション誌が権威を持っていた時代、優れた繊維メーカーは「業界誌が紹介してくれる」「展示会で見つけてもらえる」「商社が間に入ってくれる」というルートで認知を広げてきました。それで十分だった時代が確かにあります。

しかし今、その仕組みは少しずつ機能を失いつつあります。業界誌の発行部数は減り、展示会は規模を縮小し、商社経由の取引も以前ほど安定的ではない。

つまり、「黙っていても誰かが見つけてくれる」前提が崩れているということです。

これはファッション誌業界が直面している危機と、構造的には同じです。違うのは、テキスタイルには確かな品質という「発信すべき技術」があること。ファッション誌のように媒体そのものが揺らいでいるわけではなく、伝える手段が変わっただけなのです。

ここで私たちつむぐんが大切にしているのは、「ホームページを作れば解決する」という発想を疑うことです。

つむぐんではホームページ制作を依頼されても、まずお客様に「本当にホームページが必要ですか?」と問いかけます。商流の中で自社がどう位置づけられているか、誰に何を伝えたいのか、それが整理されていない状態でホームページを作っても、ただの飾りにしかなりません。

世界のハイブランドと対等な技術を持つ繊維資材メーカーこそ、発信の「設計」が問われます。

繊維業界がWebで問うべき3つのこと

では具体的に、繊維業界がWeb戦略を考えるとき、何を問うべきか。私たちが実際にお客様と一緒に整理している論点を、3つに絞ってお伝えしていきます。

① その品質は、誰に向けたものか

国内のアパレルブランドに向けたものなのか。海外のバイヤーや小ロットブランドなのか。あるいは、最終消費者に直接届けたいのか。ターゲットによって、伝えるべき言葉も、見せるべき写真も、まったく変わります。

「とりあえず幅広い層に」では、誰にも届きません。

② 品質の根拠を、言語化できているか

「うちは品質が良い」だけでは、もはや差別化になりません。なぜ良いのか。どの工程に、どんな技術が、どんな歴史があるのか。誰が、どんな思いで作っているのか。

職人・設備・歴史・素材──品質の根拠を構成する要素を、具体的な言葉で語れているか。これが信頼の出発点です。

③ 商談につながる導線になっているか

ホームページを訪れた人が、最終的に問い合わせや商談に至る道筋が設計されているか。サンプル請求のハードルは適切か。問い合わせフォームは使いやすいか。商品ページから連絡先までの距離は近いか。

これは美しさの話ではなく、設計の話です。

あなたはどう考えますか

『プラダを着た悪魔2』はファッション誌の危機を描きました。しかし繊維業界は、むしろ違う場所に立っています。生活必需品である以上、需要は消えない。世界のハイブランドと対等な技術力もある。伝統が衰退する時代において、これほどの強みを持つ業界は多くありません。

ただし、「黙っていても売れる」時代は終わりました。ファッション誌の権威が落ちた今、企業は自らの言葉で発信する実行力が必要です。それは派手なSNS運用をすることでも、無理にトレンドに乗ることでもなく、自社が本当に持っている品質を、必要としている人に、正確に伝える設計を作ることです。

繊維・アパレル資材業界・生産工場に身を置く御社が積み重ねてきた技術、品質、歴史。
それを取り巻く、業界の現状。
そして、ファッション誌という伝統が衰退していく時代の風景。

これらを踏まえて、あなたはどう考えますか?

答えは、私たちが提示するものではなく、あなた自身の中にしかありません。 考えを深めるきっかけが必要でしたら、つむぐんが全力でサポートいたします。